【書評】『〈自己完結社会〉の成立』その②

 筆者が学生時代から大変お世話になった倫理学者の亀山純生先生(東京農工大学名誉教授)が、拙著『〈自己完結社会〉の成立』に関する書評を執筆してくださいました(「書評・レビュー」ページから他の書評もご覧いただけます)。

【書評】亀山純生「現代日本の〈閉塞社会〉転換への斬新な問題提起――上柿崇英著『〈自己完結社会〉の成立――環境哲学と現代人間学のための思想的試み』(農林統計出版、2021)を読む」『唯物論研究ジャーナル 2023』、唯物論研究協会

 本書で行われている問題提起の核心部分からはじまり、今後期待される課題に至るまでを、幅広くかつ的確な形で言及してくださっています。

  特に、本書の特徴と意義として、

  1. 人間存在のあり方に注目して、21世紀日本で本格的に姿を現わしたAI技術による高度情報・消費社会を独自に〈自己完結社会〉の成立と特徴づけたこと

  2. (本書で提起された)〈生の自己完結化〉と〈自己完結社会〉は戦後日本社会が理想としてきた〈自立した個人〉による自由な個人主義社会の歴史的完成態だと明らかにしたこと

  3. 〈自己完結社会〉の成立によって顕在化した生の矛盾と生の苦しみに注目し、それ故に〈自己完結社会〉の脱却の必要を示すとともに、その焦点としてその背後の近代的世界観=人間観の転換を、全く独自の仕方で提起すること

 という3点を抽出していただきつつ、それが戦後日本の社会理論や現代哲学研究の立ち位置とどのような関係にあるのかについて述べてくださっています。従来の学術的タームと本書をつなぐ貴重な記述となっています。

  また、本書から浮かびあがる課題として、

  1. 有益な議論を展開するために、すでに共有化されている既成の哲学・社会哲学の概念に対する比較検討にもとづいた概念の彫琢がいっそう求められること

  2. 〈自己完結社会〉自体の否定すべき現実を、単に世界観の問題として論じるにとどまらず、具体的な社会的転換と社会構造の変革としてどのように展開させるかという点が本書には欠けており、その点が惜しまれること

  3. 社会変革という視点に立った場合、すでに「自己完結」した人間は〈無限の生〉の人間観を全面的に肯定しているため変革の主体にはなりえない、すると社会変革は不可能という結論となり、議論が行き詰まるという矛盾をどう考えるのか

  4. 世界観の転換として〈有限の生〉の世界観を強調したところで、結局は、社会構造の転換なき諦観主義・心理転換主義と同じであるとの批判にはどのように応答ができるのか

 という点を提起してくださっており、いずれも本書を考えるうえで重要な指摘だと思います。

 本書の意図をこれほど深く読み込み、学問的な見地から論じてくださった文献は、本書評がはじめてのものだと思います。時間をかけて本書評を執筆してくださった亀山先生には、ここで改めて感謝を申し上げます。


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