ご無沙汰しております。この度は、ようやく二年越しの『第四号』を刊行することができました。
詳しいことは、「『現代人間学・人間存在論研究』第一期を終えるにあたって』」にも書いたのですが、『第四号』は、仲間たちとこのプロジェクトを始めてきて、「第一期」の締めにあたる大事な号でした。
口先だけで何かをいっているだけで許されたのは20代まで、それをちゃんとした形にするのが30代の仕事と誓い合い、10年かけて取り組んできたプロジェクトが、ついに一つのひとつの区切りを迎えました。
当初の目論みでは、実質的な執筆は『第三号』までで、『第四号』は総括的な位置づけとなっていたのですが、結果、まったくそんなことはなくて、「第一期」の締めに相応しい、非常に内容の濃い、実りあるものになったと思います。
私も、そして一緒に闘ってきた仲間たちも、このプロジェクトを始めた当初には、その先に今回書いたような到達点が想定されていたわけではありません。これは5年あまりの執筆期間の間にそれぞれが必死に格闘してきた結果であって、同時に私たちは、それぞれにはっきりとした自らの思想的立ち位置を完成させたと思います。
私の場合でいうなら
- ①哲学的方法論としての「現代人間学」の整備、
- ②西洋近代哲学に含まれる根源的な問題としての「存在論的自由」と〈無限の生〉をめぐる考察、
- ③〈自己完結社会〉への分析や批判の先にあるものとしての〈有限の生〉の「世界観=人間観」の提示、
- ④〈世界了解〉の概念を媒介とした〈思想〉、〈哲学〉、〈芸術〉、〈救い〉、〈美〉といった人間存在の根源に関わる営為に対する一貫した説明、
などだと思います。
デジタル技術や生命操作技術がもたらす人間存在の揺らぎや、〈自立した個人〉を中心とした人間的理想の行き詰まりから始め、700万年に及ぶ人類史、「人間的な生」の根源、「人間的な関係性」の根源にまで踏み込み、人間の未来を見据えたひとつの「世界観=人間観」を提示すること、しかもそれを単なる海外の文献の「お勉強」としてではなく、時代を生きる一人の人間の〈思想〉として完成させること。
内容に共感してもらえるかどうかは別として、ここまで書けることができて、本当に良かったと思います。
『現代人間学・人間存在論研究』 第一期 第四号
特集 存在の波止場
- 『現代人間学・人間存在論研究』発刊によせて
- 『現代人間学・人間存在論研究』第四号のための序(上柿崇英/増田敬祐)
- 人〈生活世界〉の構造転換と〈自己完結社会〉の未来―〈無限の生〉と〈有限の生〉をめぐる人間学的考察(上柿崇英)
- 存在の耐えきれない重さ―環境における他律の危機について(増田敬祐)
- 波打ち際の大聖堂―計算に引き寄せられる世界のメディア論(吉田健彦)
- 『現代人間学・人間存在論研究』第一期を終えるにあたって(上柿崇英)
唯一残念なのは、40歳になるまでに、この成果を単著として刊行するところまではいけなかったことでしょうか。三人で単著を書いて、それらをシリーズ本として出版するという当初の目標は、残念ながら実現することは困難なようです。しかしそれぞれの形で単著計画自体は進んでいますので、これが終わって、ようやく本当の意味で「第一期」を終えることができるでしょう。
末永くお見守りください。